顔面神経麻痺
 
顔面神経麻痺を考える24
   食生活    
こんた治療院

 今回のお話は、食生活のお話を書いてみたいと思います。
 私も28年ほど前に顔面神経麻痺を患って、食べる事に四苦八苦していたことを思い出します。しかし、食べる事すなわち楽しみの1つを奪われてしまうと、ため息も漏れてきますよね。でも身体に栄養を注入しないと、回復に支障を来すなら、他人が見ていようと『食うしかない!』と勤務先の病院の食堂で自分で持って来たレンゲを使って食べていた記憶を思い出します。

 麻痺直後には食事が不安定になるけど、食事をなんとかしっかり取れる様にやってみよう。

 末梢性の顔面神経麻痺になると、味覚が損なわれて味も偏って食事がおいしくない。病気のショックで食欲もない。食べづらいので、ついつい食べ物を残してしまう。水痘ウィルスが反回神経まで損傷させているケースでは、声帯や胃の運動も不安定で食事も困難になっている。などなど。細かい事ですが、食欲というのは非常に大事な欲求であり、楽しみの1つでありますから、こうした事はメンタルにも直撃してくる要素でもあります。私にもこの経験がありますが、お腹は減っているのですが何とも楽しみの1つが奪われたと思ってしまうのもこうした状態ですから仕方がないと思うのですが、その1日3回ほどの楽しみの時間ごとに落胆を繰り返しているのですからたまったものではありませんね。特に吸う事ができないので、麺類には苦労しました。それと口の中で、麻痺側に食べ物が残ってしまう事も大変でした。食べ方に慣れも必要な時期でもありますね。
 しかし、栄養を取らなくては、病気の回復に支障が出ると思えばこそ、なんとか胃の中へ詰め込む!事で克服できてくるものです。それで、体力の回復やらビタミンB12の摂取などができるのですからね。

 メチコバール(メコバラミン)は、ビタミンB12(コバラミン)の一種。

 顔面神経麻痺になると、医者の出す薬として、メチコバールという名前のお薬を処方されます。これはいわゆるビタミンB12であり、末梢神経障害(神経麻痺やシビレ、感覚障害など)では頻繁に処方箋でお目にかかる名前のお薬です。それでは、ビタミンB12ならば食べ物から摂取したらどうか?と考える人も多いのではないでしょうか。それも当然の考えですが、平成時代の日本人の平均食生活におけるビタミンB12の1日における摂取量は、ほぼ満たされている食生活状態であるという事ですので、慌てる必要性はよほど食生活に偏りがある人以外は、食べ物からの摂取の状態は問題が無いと考えてよいと思います。この食生活の偏りというのは、極端な菜食主義の方は1日の摂取量は足りていない可能性があるという事です。それと、これは偏りとは関係がないのですが、タンパク質が少ないとビタミンが吸収されないので外科的に胃を切除した人は身体に吸収できにくい事も付加えておきます。ですからこうした人はお薬としてのメチコバールが助けになります。
 では、ビタミンB12を多く含む食材はどの様なものかといえば、貝類と青魚や魚卵などに多く含まれています。貝類では、シジミ、赤貝、あさり、ホッキ貝、はまぐり、かき等。青魚ではイワシ、サンマ、ニシン、サバ等。魚卵は、イクラ(すじこ)、たらこ、キャビア。レバー類では、牛、鶏、アンコウ肝(あんきも)、豚、牛小腸、いかの塩から等です。こうして書くとこれらを大量に取っておけば大丈夫かと考えますが、実はこのビタミンB12は水溶性ビタミンの種類なので、摂取が一定量に満たされると尿として外へ出されてしまいます。という訳で、通常に食生活を送っている方であればビタミン12は1日の摂取量をほぼ摂取できていると考えます。
 という事で、このメチコバールというお薬は、ビタミン12を通常より長く体内に停める様でその点においては、非常に優秀であると考えられます。神経の修復の環境を安定した状態に整える為に貢献しているものですね。

 飲酒は回復期までは避けた方が良いと考えます。

 飲酒に関しては、お酒を好む人は気になる所ですが、それにしても発病してからまだ間もない早期から飲みたいという人は、そうはいないでしょう。飲みたい欲の事はさておいて、飲まない事がベストであるお話をして行きましょう。
 まず、ベル麻痺やラムゼイハント症候群の病態から考えると、急性期に局所的炎症と浮腫が神経組織に起こっているので、こうした状態であればもちろん飲酒は不可能と考えます。また、お薬として投与されるステロイド(人工的に作った副腎皮質ホルモン)は、副作用もあり、肝臓への負担もかなり大きい薬で、代謝に関与する組織器官(腎臓、肝臓)のチエックもしながら経過観察するべきお薬ですから、こんな時に飲酒は禁忌です。
 そして、麻痺した神経の回復に必要なもの<顔面神経麻痺を考える19神経回復の条件>をすでにUPしていますが、赤血球の運んでくる新鮮な酸素、ATP(アデノシン三リン酸)、やビタミンB12を中心とした物質、それを運搬する血管の拡張と血管の運動などが必要になってくるのですから、盛んに回復している時にはアルコールは妨げになる事になります。
 アルコールの分解はストレートに肝臓で行います。血液中に含まれくる物質ですので肝臓のお仕事になるのです。肝臓での分解の優先順位では、身体の外から入る物質の中ではアルコールが最優先で分解されます。つまり、他に分解すべきものがあってもアルコールを優先して分解に入るので、一部のお薬の肝臓の分解によって身体に分配させるものは、その順位はアルコールを分解後に回されるので、その作用として、薬の効能ダウンと成分の解毒失敗という状態になる事が知られています。肝臓にあるクッペル巨細胞は、解毒をする細胞です。有名な話としては、風邪ぐすりとアルコールを一緒に飲む事による弊害ですが、風邪薬の肝臓での分解が損なわれると、解毒失敗となり人体に影響するという事です。
 回復期は、神経伝達の為の準備期間でもあるのですから、自己判断ではなく担当の先生とよく相談して先生の許可のもとだと安心しますね。

 病気をケアするご両親やご家族の方へ

 食事の際には、こうした事が当の本人に起こっているのですが、食事の献立をバランスよく保っているのならば、無理に見直して変更する必要はないとお話しておきましょう。食べにくい物があると言って、食べ易い品目だけをとるのではなく、食べ易い様にしてあげる事(大きい物を小さく切ったり、硬い物を柔らかくしたりなど)が大事です。スープ類はこぼしやすいので、こぼしてもかまわないとしてあげることです。食事がもとで喉に詰まる事はありませんが、口の中に入っている時に話そうとすると口の中の物が出易いので、その点を承知してあげて下さい。それと、麻痺側の口内を噛み易いという事、麻痺側に食べ物が残り易い事も知っておいて下さいませ。
 さらに小さいお子様ですと、歯と歯の間つまり歯間に食べ物が挟まり易いので、虫歯になる可能性を無くす為にしばらくは歯ブラシの、ブラッシングを手伝ってあげる事が良い事と思います。小学生でも低学年ならば、こうした事を積極的にしてあげるほうが良いと思います。うがいも上手にはできませんが、これもこぼして当然としてあつかってあげてください。お願いいたします。

 旬の物は、その季節に合った身体作りをする。医食同源

 中国の古書で、漢方薬膳料理等の基礎になる教本である《本草草木》という本があります。その本には食材の1つ1つの薬効成分が書されていますが、その成分は旬に対応して効果を発揮するものであると理解できます。日本では四季という季節の節分を4つに分けていますが、昔は中国では大きく5つに分けて考えていました。その5つとは、春夏秋冬に加えて、土用(どよう)というものです。ご存知の通り、夏と秋の間に入る季節で、最も暑い季節を指します。あの土用のうなぎの土用です。土用には事細かな説がありますが、中国医学(五行論)では季節を5つに分けて、夏と秋の間の季節つまり最も暑い日から残暑までの季節を指しています。
 さて、細かいお話はここではしませんが、要するに四季を持つ日本では、その旬を考える事で今食べるべき食材のベストマッチングが容易にできるという事なのです。さらに露地物(ハウス栽培ではないもの)と限定する事で、漢方的ベストマッチングが整うという事なのです。そして、なぜベストマッチングが必要なのかといえば、タイトルの示す通り、旬のものはその季節に合った身体作りをするという事なのです。
 ここにその例を少しあげておきましょう。夏の頃盛んに収穫できるものとして、キュウリ、スイカなどがありますが、この様なものは身体の熱を必要以上に上げない、むしろ熱が余分である時には清熱といってクールダウンする作用がある食材と考えています。夏の身体は汗をいっぱいかきますので、水分の補給が必要になってきます。現在の日本では水分の補給は簡単に便利に取る事ができますが、昔では飲み水も容易にとる事ができず、こうした食材からの水分確保は新鮮なお水であることは間違いのないものでした。夏に取れるウリ(瓜)類はこうした水分の補給と、清熱による効果で人の身体の代謝をサポートしているものとして考えています。
  冬に向けて盛んに収穫する物として、白菜や大根がありますが、秋冬は乾燥する季節で、身体の乾燥を防ぐために水分の多いこうした食材は非常に重宝します。さらに身体を温める方向性を持っているので、その調理も熱を加える事で更に身体を温めてくれます。大根は今の日本では1年を通じて出回っている野菜ですが、お刺身のつまとしても利用されていますが、実は中国医学では生の魚は身体を冷やす傾向を持つとされており、大根を食す事でバランスも取れると考える事ができます。お寿司に関しては、つまに生姜を使っていますが、生姜も身体を温める傾向を持っています。ついでにシソの葉やわさびは解毒の作用をする様ですから、意外と無意識にも医食同源という事に私たちは日常触れているという事も書いておきましょう。私が昔教わった中国の大学時代の先生は、和食には医食同源に直結したものが多いと言っていましたが、30年近く経過して先生のお話を思い出しながら書いている自分自身にも、和食は良いと再認識しています。
 では、保存食はどうなのか?実はこの保存食の考え方が後に、漢方薬として利用されるものになってゆくのです。それは私たちの身体に病態として起こっているもの、特に外邪(がいじゃ)として身体の中に進入する例えば感冒(風邪)やインフルエンザなどを中国医学で分析した結果、身体の中に入ってくるその邪の性質を克服する為に、身体に何が必要かを判断して投入する。これが中医の漢方薬なのです。身体に必要な分だけ投入する事で、外邪を撃退するという方法です。
 普段から栄養に気を使っている皆さんとは思いますが、是非とも旬の物、露地物を取り入れてベストマッチングな、お食事も考えてみて下さいませ。 オーガニックにも着目する人も現代では多い様ですが、まずは簡単にできる事から始めて見る事ですね。

 おまけ。陳皮(ちんぴ)という漢方薬をみなさん聞いた事はありますか。この陳皮は、赤いみかんの皮を干したものです。陳皮の作用は、胃腸の働きを良くしたり、血圧降下作用もある様ですが、他のお薬とのマッチングで温煦(あたため)効果を引き出す様です。みなさんご存知の、『七味唐辛子』の中に入っています。

 このコンテンツのまとめ。

 病気になると、あれやこれやらと考えてしまいますが、そのあれやこれやをコンテンツにまとめる事も1つの作業だと思っています。とりあえず、ビタミンB12は今や日本人の食卓では平均して取れているという事、先生の出すメチコバールはどの様なものかを書いてみました。もともとビタミンの不足でなる病気ではない事を考えると、あわてての対処はまずいらないと思いますが、食欲も低下する事や食べづらさでついつい減量したりすることのないようにすることが大切であるというお話です。
 つらい状況もよくわかりますが、ぼちぼちと顔面神経麻痺をやっつけてみてくださいね。



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 顔面神経麻痺に関係する執筆内容のページです。是非読んでみて下さい。
 こんた治療院 <治療の窓>より抜粋しました。
 毎日、診察の合間にコツコツと執筆しながら早24年が経ちました。皆さんに1つでもお役にたてる事がありましたら、幸いと思いながら、今も尚治療の合間に書き続けている内容です。全国の方から色々な御質問などいただき、毎日心を込めて返信しています。そうしたみなさんの力で、今日まで一生懸命やっていて良かったと思うのは、インターネットのすばらしさの1つだと考えています。

 シリーズ
 顔面神経麻痺を考える

6.1 後遺症各論
<病的共同運動の強調>

7 小児の顔面神経麻痺
:ケア編

8 顔面体操と
顔面の運動は、
やってはいけない

10 顔の痛み 三叉神経痛

21 随意運動と不随意運動

23 やっつけに行く
今回は、
鬼軍曹の
独り言ですか?


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