顔面神経麻痺
 顔面神経麻痺を考える10 
 顔の痛み 三叉神経痛 こんた治療院

 今回のお話は、顔面神経麻痺のときに出てくる顔の痛みを中心に書いてみたいと思います。こうした顔面神経麻痺のときに出てくる顔の痛みは、なかなか難しい領域にあるものと、治療を重ねてゆくうちにすぐに治るものとありますが、こうした事に悩みを抱えている人には今回のお話が参考になればと思います。

 発症時に多数の人に見られる
 顔の(耳の後ろも含む)痛み

 顔面神経麻痺が発病する直前から、発祥して1〜2週間程度まで続く痛みは、顔面神経が内部から外部へと通過するポイントを中心に出てきます。顔前面でいうと頬の部分と、下あごの口角の下の部分が主なポイントです。耳の後ろは、頭の骨の出っ張った部分の周辺が痛みます。解剖学でいうと頬の部分は眼窩下孔、下あごの部分はオトガイ孔という穴が空いており、そこから血管やリンパ管が出ています。

 痛みの原因は、顔面部内外のリンパ節の腫れによる痛み

 この場合の痛みは、痛みの起こっている部位に注目するとリンパ節がある事に注目したいと思います。眼窩下孔には頬リンパ節が介在し、オトガイ孔にはオトガイ下リンパ節が、また耳の後ろには耳介後リンパ節が存在します。
 喉が腫れたりするとリンパ腺が腫れますが、この場合は深頚リンパ節の触診で腫れを確認できますが、上記の頬リンパ節以外の2つのリンパ節は深在性リンパ節といって外からは触診できない位置にあります。(頬リンパ節は浅在性と深在性の両方をもつ) しかしながら腫大したときには隣接の組織器官を圧迫し影響が出るのも深在性リンパ節の特徴です。
 こうした事からこのリンパ節の腫れによる痛みが顔や耳の後ろに出ていると考えます。この痛みの特徴は重いずっしりとした鈍痛で、深い位置にあるような痛みと形容される事が多いのも特徴といえるでしょう。

 この痛みは治ります

 こうした痛みは個人差もありますが、1週間程度で落着いてきます。中には2週間以上かかる人もいますが、鍼治療をすると間もなく改善いたします。

 水痘ウィルスが原因で三叉神経痛として痛みが出ている。

 水痘ウィルスが原因で出ている三叉神経痛(帯状疱疹)は、急性期の処置を鍼治療でする事で非常に良い効果が期待できます。帯状疱疹を伴う肋間神経痛も同じく、鍼治療の鎮痛効果は皮膚科でも認めるものです。顔面神経麻痺の治療と同時に進行できる治療で回復してきます。やはり、早期治療が非常に効果がありますが、慢性期に入ると回復の条件が満たされない場合も出てくるので、鍼治療は早期治療で回復期に行う事が望ましいと思っています。

 回復期において、顔の痛みが出てくる。難治性のケース。

 上記のリンパ節の腫れによる痛みのほかに、発症後回復期より段々と強調され顔の痛み(一般に三叉神経痛と呼ばれる)とされる症状を持つ人がいます。私自身は顔面神経麻痺と合併して起こる三叉神経痛を他の単一で起こる三叉神経痛と区別して考えています。
 確かに三叉神経のルート上に痛みが起こっている事実からすると、三叉神経の痛みとして名称としては正しいのかもしれませんが、臨床上の性質としては全く違うものとして取り扱いを受けないと、治療のアプローチも変わってくると考えています。
 では、どのような性格なのかというと、大きな違いとして痛みの性質です。顔面神経麻痺と合併して起こるこの三叉神経痛は、圧迫しても痛みは増強せずにむしろ楽になるという性質です。
  単一で起こる三叉神経痛では、水痘ウィルスによって水疱も作り帯状疱疹というかたちで起こるもの、慢性的に三叉神経痛を繰り返す反復型で起こるもの(動脈接触型、外科的処置が有効)など全てにおいて、患部を触る事を拒むケースが一般的で、もちろん圧迫においては痛みが増強するのが一般的です。
 痛みの場所としても、顔面神経麻痺と合併して起こる三叉神経痛は、主に顔の表面に限定され、顔面神経ルートと三叉神経ルートに合致して起こります。また、額には痛みが出ていないケースがほとんどである事も特徴といえると私は思います。特に中心的なのは頬、鼻の脇、口角からあごにかけてです。
  一般的な三叉神経痛においては三叉神経ルート上に痛みが限定されます。(症状は省略)
 私の考えている、顔面神経麻痺における頑固な三叉神経痛に関しては、カウザルギーというカテゴリーに位置づけされる神経の痛みと理解しております。やはり、水痘ウィルスや単純ヘルペスウィルスの影響で、神経内部では神経変性の状態であると考えているからです。しかしながら、そうではない可能性もある事も考えています。

 カウザルギー(causalgia)とは?

 カウザルギーとは痛みの分類の中でRSDと並んで難治性の痛みを考察する上で用いられる言葉で、末梢神経の損傷が前提にあり、神経回復と共に生じる痛みを指すものです。
 RSD(reflex sympathetic dystrophy)=反射性交感神経ジストロフィーは、心筋梗塞における左小指の痛みや帯状疱疹(水痘ウィルス)の後に出てくる頑固な肋間神経痛、三叉神経痛などの痛みを指します。
 今回のお話では、顔面神経麻痺という運動神経の機能停止=神経麻痺という事における末梢神経の損傷のもとに痛みが出ているために、私は顔面神経麻痺の後に出てくる三叉神経痛はカウザルギーに属するのではと考える理由の1つです。しかしながら、この顔面神経麻痺における三叉神経痛もRSDと同じく局所の虚血状況がみられる事も認識しております。
 私の考えではラムゼイハント症候群における水痘ウィルスが顔面神経(運動ニューロン)と三叉神経に直接働きかけるケースで起こる頑固な痛みをカウザルギーと考え、血管炎などで起こる顔面神経麻痺ではこうした痛みは極まれであると考えています。
 私の専門の中医学においては、こうした痛みの定義は古代から考えられ、総合して「痺証」(ひしょう)と言い、カウザルギーやRSDに相当する痛みは頑痺(がんひ)、痼痺(こひ)として明記されています。やはり古代の治療家も苦戦しているようです。臨床文献には極めて治療効果のよいものしか記録されておらず、この頑痺(がんひ)、痼痺(こひ)は臨床例の少ないものですから研究のための臨床数に欠けるものだとして理解しています。

 顔面神経麻痺による三叉神経痛をもっと理解したい。

 現状ですと、顔面神経麻痺の際に合併して起こる頑固な三叉神経痛に関して、医師らの認識もあまり多くなく、こうした内容の相談もメールに寄せられます。医師に「顔面神経麻痺では顔に痛みは出ないよ!」という言葉で顔の痛みを理解してくれないという内容です。恐らく、ラムゼイハント症候群の所見及び多発性脳神経障害(前庭神経障害=めまい、迷走神経麻痺など)の所見が診られなかったためにそうした解答をしたのでしょう。
  私の臨床経験ではこうした合併して起こる三叉神経痛も年間2、3名の割合で加療しています。そうした皆さんの意見では、医者が痛みを理解してくれないというお話が多いのです。おそらく、顔面神経麻痺になった人の1,000人に1人程度の割合でこうした痛みを伴うので臨床上はなかなか診る事は無いのかもしれません。
 三叉神経痛の治療薬として一般的に普及処方されている薬に、テグレトールという抗てんかん薬を用いているようですが、顔面神経麻痺に合併して起こる三叉神経痛にはこうしたお薬は思ったような効果が期待できないようです。その問題はやはり前記したとおりに痛みの性質が微妙に違うという事なのではと感じています。
 私が今考えているこのカウザルギーというカテゴリーに属す痛みと考える理由の一つは、脳神経の情報交換ミスによってこうした痛みが顔に出ていると考えているからです。いや、実際には顔に痛みは存在しなく、痛みの情報として脳へ末梢から信号が送られているといった考えのほうが正しいのではと考えています。

 RSDに属する、脳血管障害、中枢神経麻痺における視床痛というものは、私は病院勤務時代に相当数看てきておりますが、この視床痛という中枢系に起こった問題は、実際には手や足は痛む所見は無く、視床の損傷により脳の誤認における手足の痛みとなっているもので、こうした末梢部に痛みの原因が無いケースで考えるものの1つです。

 カウザルギーに属する末梢部で起こるものの代表的なこうしたケースでは、ファントム(幽霊)現象、幻肢痛といわれるもので、手足を切断した人が存在しない手足の痛みを訴えるものです。私が治療に当たったケースでは、存在する同じ手足の部分に治療を加えて治療したケースと頭にイメージをさせて無い手足を動かすトレーニングなどをしましたが、このケースで特に興味深かったのは、手足が無いのに脳からは信号が絶えず出ているという事です。もちろんこうした事は義手や義足をロボット化するシステムですでに応用されているようですが、こうした情報が絶えず送られているにもかかわらず、実は脳へのフィードバックの欠損によって情報交換のミスとして「痛み」という事が起こっていると考えています。無い手足を動かす実感は実は、視覚的にも得られるのではとも思っています。同じ脳神経を使う事でこうした満足感、つまり情報のフィードバックが実現できると脳は納得すると考えます。

 では、極めて、水痘ウィルスや単純ヘルペスウィルスが明確でなく、神経腫瘍などの問題が無い、顔面神経麻痺における頑固な三叉神経痛についてはどう考えるのか?という点ですが、末梢の顔面神経(運動神経)麻痺において発症後、機能回復時点において脳からの伝達のレスポンスの悪さを受動的に三叉神経路を通じて脳へ送り返された情報交換ミスではないか?という事を私は考えています。脳からの指令において、任務を全うできない顔面神経(運動神経)に対して、何かしらのトラブルに見舞われているという情報を三叉神経(知覚神経)を通じで脳への情報通達を行う過程で「痛み」という信号に変換され脳に送られている状態がこの症状の正体ではないか?と考えています。
 また、他の所見としていずれもこうした患者の局所の虚血状況が共通していることに私は注目しています。RSDの場合は特徴として、交感神経反射が急性期をすぎても落着かず、継続して交感神経が過緊張するために局所に虚血症状=冷えや血行障害を表す所見が出てきますが、同じく顔面神経麻痺における頑固な三叉神経痛にも同様の状況も確認できます。

 全く同じ様な現象としては、心筋梗塞における左の上肢(小指にかけて)の痛みも同様であると考えています。このケースでは血管の状況を知覚神経がピックアップしながら脳への 情報通達に際して「痛みとしびれ」の信号を送っています。このケースにも虚血状況は存在していると思われます。また、私の所見ではこうした患者が心筋梗塞の手術や処置を終えた後にも、まだ痛みを訴えるという事も多く注目するに値する事だと思っています。

 この痛みを憎悪強調させる共通点

 この種類の痛みを憎悪させる共通点として、メンタル的素因が軸になっている事も特徴です。患者の精神的状態が比較的安定しているときには痛みの存在も薄く、睡眠時には消失しているという状況です。もちろん炎症を伴う痛みではありませんので、自発痛はないのが前提ですから、睡眠時という表現はもう一つ脳の安定しているという意味でとらえていただきたいと思います。また加えて温熱刺激を好むという事も虚血性からの観点から興味深い事です。副交感神経の優位なときに安定している、血管運動がきわめて盛んな状況では安定しているという見方もあります。
 そして、ひとたびメンタル面の安定が失われると、その代償的結果として痛みが強調されるといった状況が出てきます。特に顔面神経は心理的表現を表情として表しますので、こうした精神的不安定=顔の表情=三叉神経刺激といった構造を作りやすいのだと考えます。悲観的思考、不安要素の回顧など消極的意識が強い場合はこうした痛みの時間は続きます。
 結果として、日常の精神的安定感が必要であると同時に、自分でコントロールする(不安感の回避)自信をつける事が大事であると思います。1つ1つ丁寧に時間がかかる作業ですが、治療家がめんどうがっていてはこうした痛みを取る治療はできないと考えています。
 私はこうした関連の痛みを増強させる要素に関しては、帯状疱疹(水痘ウィルス)による三叉神経痛、肋間神経痛の頑固な痛みにも同様の考えから治療を加えてゆきます。さらに、メンタルケアは本来そうした意味で必要だと考えます。

 私のところは、小さな治療院ですから

 私の治療院は、本当に田んぼの中の小さな小さな治療院ですから、大きな大学病院の検査システムや機能は持ち合わせてはおりませんので、あくまでも私の臨床経験上でのお話ですから、そうした事を私なりにこう考えているといった程度のお話です。痛みについては様々な考えや臨床考察が必要なのではと日々思っておりますが、その治療にも非常に苦戦しているのが現状です。
 しかしながら、こうした少数にしか存在しない痛みに対しても、私は顔面神経麻痺をやっつけに行く隊長ですから目を向けて全力で治療してゆく所存です。
 なかなか臨床上においては様々な教科書には載っていない事も多く、毎日が自分の治療の反省会である事も確かです。みんなで泣いて笑っての、他にはない治療院の環境ですが、小さな事にもいろいろ目を向けていきたいと思っています。



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 こんた治療院 <治療の窓>より抜粋しました。
 毎日、診察の合間にコツコツと執筆しながら早23年が経ちました。皆さんに1つでもお役にたてる事がありましたら、幸いと思いながら、今も尚治療の合間に書き続けている内容です。全国の方から色々な御質問などいただき、毎日心を込めて返信しています。そうしたみなさんの力で、今日まで一生懸命やっていて良かったと思うのは、インターネットのすばらしさの1つだと考えています。

 シリーズ
 顔面神経麻痺を考える

6.1 後遺症各論
<病的共同運動の強調>

7 小児の顔面神経麻痺
:ケア編

8 顔面体操と
顔面の運動は、
やってはいけない

10 顔の痛み 三叉神経痛

21 随意運動と不随意運動

23 やっつけに行く
今回は、
鬼軍曹の
独り言ですか?

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