顔面神経麻痺
 
顔面神経麻痺を考える15
 ホウレイ線の強調の原因 こんた治療院

 今回のお話は、顔面神経麻痺の回復時におけるホウレイ線の強調のお話です。私が顔のリハビリと称した運動をやってはいけないと言っている理由の1つでもある内容です。病的共同運動の強調の回避はどうするのか?という事に1つの私の考えとしてホウレイ線に関してコンテンツを書いてみました。


 ホウレイ線とは

 私たちの医学用語ではこの<ホウレイ線>は鼻唇溝(びしんこう)と呼んでいます。一般的には加齢によってその筋(すじ)は強調される線であることから、役者さんなど人を老けさすメイクには影を強調させる場所です。このホウレイ線は唇のまわりの口輪筋と小頬骨筋、大頬骨筋、頬筋、上唇挙筋、上唇鼻翼挙筋などの筋構成によって形成される線です。

 ホウレイ線とそれを構成する筋肉をみてみましょう


1
眼輪筋
2
上唇鼻翼挙筋
3
上唇挙筋
4
小頬骨筋
5
大頬骨筋
6
口輪筋
7
笑筋
8
口角下制筋
9
口角挙筋
10
咬筋
11
頬筋

 ホウレイ線の強調と筋肉の関係

 顔面神経麻痺におけるホウレイ線の強調は一言でいえば、神経回復時における病的共同運動の仕業であるといえますが、私はこのホウレイ線の強調においてもう一つ踏み込んだ考えをお話しいたします。それは自然にも老化という過程においてもこのホウレイ線が深くなるという事実をふまえての話です。
  臨床観察からこうしたホウレイ線の強調を診てゆくと、口輪筋の緊張との関係が見えてきます。つまり口輪筋の生理的緊張が失われている場合に、このホウレイ線が強調する条件を生み出すということです。老化においてのホウレイ線の強調は、左右のホウレイ線が強調されてきます。この事は、口輪筋とそれに付着している小頬骨筋大頬骨筋、頬筋、上唇鼻翼挙筋の関係にあると考えられます。
 口輪筋の仕事は、唇を閉じる事です。老化における口輪筋への筋力低下(筋緊張低下)や歯並びを主体とした口腔内の形態の変化(例として、入れ歯除去後の口輪筋にできるしわ)において口輪筋のゆるみが見られます。するとこの時に顔面の表情として、同時にホウレイ線が強調されて見えるのです。
 頬筋の仕事は頬をふくらまし、口の中の食べ物などが上手に噛める事をサポートします。顔面神経麻痺になると、この頬筋も麻痺し口の中をしばしば噛んでしまいます。頬筋は口輪筋に付着しています。口輪筋に付着する総ての筋肉は、唇を放射線状に開くために仕事をします。
 老化時の状況としては、口輪筋が緩み、その他の小頬骨筋大頬骨筋、頬筋、上唇鼻翼挙筋は正常を保っているが、その状況としては頬筋を中心に頬が引き上げられている状況であり、結果的にホウレイ線が強調されていると考えます。

 麻痺した口輪筋

 顔面神経麻痺の回復時におけるホウレイ線の強調の1つは、この口輪筋の病的弛緩が原因です。
 頬筋をはじめとした口を放射線状に開く筋肉の麻痺が解除され動き出している状況で、口輪筋の回復が遅れている状況の中でこうした顔の表情はホウレイ線を強調する条件ができているのです。そしてこの口輪筋が回復してくると、ホウレイ線も落ち着きを取り戻すという論理になりますが、そこが上手に行かないのが、顔面神経麻痺の回復時における病的共同運動の合併症の介入なのです。
  私が顔面神経麻痺において、リハビリと称した顔の運動を推奨しないのはここにもポイントがあります。口輪筋の回復が遅い時期に頬筋を使ったリハビリ的運動の繰り返しをしてしまうと、自ら神経混線を助長する可能性があるのです。またこの状態で、口輪筋が回復したとしても頬筋がノーマルの緊張状態にない(病的共同運動における頬筋の過緊張)が生じている場合は、ホウレイ線が強調された顔になっているのです。

  神経の回復序列と口輪筋回復

 神経の回復の仕方を枝の長さ(距離的)で説明するならば、回復は神経が侵された部分から末梢へと回復してゆきます。このことから、口輪筋を正常に動かす事に到達できるのは顔面神経の枝の末端であることから、非常に時間がかかる道のりである事がわかります。
  不完全麻痺の場合はこの状態ではなく、筋肉を動かす力はないものの神経そのものは伝達意識が残っているケースで、2、3週間程度で筋肉を動かすまでになってきます。
 完全麻痺の場合は、顔面神経の最上部から侵された場合には、口輪筋のある末端に到達するには、1日1ミリとした教科書上の回復の指標を示す言葉を借りるならば、有に3ヶ月以上かかることになります。
 臨床からみると口輪筋が動く前に頬筋の動きが先に出てる事がほとんどなのは、神経の枝ぶりからすると、まずは頬筋が先に回復優先順位があります。その先に口輪筋へと神経は枝を延ばしている様に口輪筋へとつながっています。
 順調に神経枝に沿って回復するならば、ホウレイ線が例え一時期強調されている様に見えても、その先の口輪筋を正常に動かす事になれば、ホウレイ線は左右ともに安定した状態を保てるという論理になります。

 同時に起きている合併症との兼合い

 口輪筋とともに口角を不随意に動かす運動が、顔面神経麻痺の合併症で出ている人もいます。ジストニアとよばれる局所の神経痙攣です。神経が再生される過程において何らかの問題が生じているために、神経の伝達がこうした不随意運動を起こしたもので、顔面神経麻痺の再生時に口角を不随意に引く動作が現れます。重度のケースによってはこの痙攣が持続的に起こるものもあり、顔面神経痙攣として診断されています。軽度であれば口輪筋の回復とともに、それほど気にならない程度になります。


 麻痺の後遺症の回避は

 麻痺の治療と一口に言っても、ただ神経が動けば良いという時代は終わっているのだと私は言いたいのです。単に「麻痺にはこの治療が効くよ!」という言い方は専門家ならなおさら良くない言い方だと考えています。私たちは、その治療が何のために、どのように効果をあげてゆくのかを患者さんへきちんと説明をしなければいけません。
 この顔面神経麻痺の治療においても、各経過の過程において今自分がどのような状況下で治療が進んでいるのかを、きちんと担当の先生に説明を受けながら回復までの時間を過ごす事がとても大切になってきます。こうした説明がなく、ただ黙って治療をしているとしたら、様々な問題となって自分の身に降り掛かってきます。顔面神経麻痺には後遺症という問題がある以上は、こうした問題を最小限に回避する事がとても大切であり、その努力(ケア)が大切なのです。
 ならば、顔面神経麻痺になったみなさんも、ある意味そうした知識を持つ事が後遺症への回避に役立つという事だと私は考えています。
  こんた治療院 院長


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 顔面神経麻痺に関係する執筆内容のページです。是非読んでみて下さい。
 こんた治療院 <治療の窓>より抜粋しました。
 毎日、診察の合間にコツコツと執筆しながら早23年が経ちました。皆さんに1つでもお役にたてる事がありましたら、幸いと思いながら、今も尚治療の合間に書き続けている内容です。全国の方から色々な御質問などいただき、毎日心を込めて返信しています。そうしたみなさんの力で、今日まで一生懸命やっていて良かったと思うのは、インターネットのすばらしさの1つだと考えています。

 シリーズ
 顔面神経麻痺を考える

6.1 後遺症各論
<病的共同運動の強調>

7 小児の顔面神経麻痺
:ケア編

8 顔面体操と
顔面の運動は、
やってはいけない

10 顔の痛み 三叉神経痛

21 随意運動と不随意運動

23 やっつけに行く
今回は、
鬼軍曹の
独り言ですか?


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