顔面神経麻痺
 顔面神経麻痺を考える12 
 
アブミ骨筋性(閉塞性)耳鳴り
 トリックモーションにおける共同運動の強調

  こんた治療院

 今回の私のお話は、少しばかり難しいお話です。議題にあがるのは顔面神経麻痺における共同運動の強調の解明において、トリックモーションの関与があげられると考えています。
  後半はアブミ骨性(閉塞性)耳鳴りについてです。


 トリックモーション

 まずは、このトリックモーションについてお話をしてゆきます。
 このトリックモーションとは、実際の筋肉の行動とは違った(患者の意志とは違う)動きを呈するもので、運動神経を介して行う代償性の運動をトリックモーションと呼びます。そして医療現場では、神経麻痺などにおける筋肉の運動性能を評価する際にこうしたトリックモーションを見抜き評価対象として頻繁にこうした言語が使われます。
 末梢性神経麻痺では手や下肢の運動機能を評価しながら、神経の回復を評価するMMT(徒手筋力テスト)というテストが代表的な評価テストですが、このテストにおいてもトリックモーションという言葉が使われます。

 顔面神経麻痺における
 トリックモーションと共同運動の強調

 私の考えにおいて、顔面神経麻痺における麻痺神経を自己運動を強要させる際に、すでにトリックモーションを起こさせていると考えます。この自己運動の強要にあたる部分が顔の運動です。手や足の末梢性麻痺においては、損傷していない神経を用いて損傷している神経を使わない動作を筋肉が表現する、この動作を見抜く事が我々プロのトリックモーションを見抜く仕事であり、評価の適正であるのですがその動作は支配神経の明確なポイントがあり、教育を受けたものであれば非常に安易にわかりやすいものであります。
 しかしながら、顔面神経麻痺におけるそうした評価が難しい点は、1本の枝から分岐する3本の枝の支配という点です。臨床においてこの3本の枝が同時に回復するというケースは、早期においての回復のみであり、2ヶ月以上経過しているケースでは3本の枝が同時に回復している傾向にあるのは極わずかなものであるように思われます。つまり回復の良い枝と回復のゆっくりな枝が回復時期に存在してくるために、神経の枝の格差が生じてくる。この神経格差が顔におけるトリックモーションへとつながってゆくものと私は考えています。
 顔面神経は脳神経が12対ある中の1つ、そしてそれが脳から末梢へと枝を伸ばし表情筋へとジョイントして脳が感じている事を表情を持って表す事になっています。また、その表情を表す筋肉を使って私たちの生活に必要な動作を自動的(反射的)に行ってくれる機能も備えています。自動的(反射的)に行う動作とは瞬きをする閉眼の動作などです。こうした動作を担当する顔面神経がトリックモーションを引き起こすのは、3本の枝を持つ事と、そのルートが狭く密接である事、そして回復の格差による筋肉の引き合いが脳神経からの伝達ルートを変えるために起こるものであると考えています。
  トリックモーションは一般的に脳からの伝達事項に答えるために代償的に行われる動作です。脳からの伝達は人にとって絶対的服従である伝達事項ですから、通常はその伝達事項は間違いなく神経を通じで伝達されるべき目的地に情報が運ばれてゆきます。ところが、その情報が目的の場所に届く事はできても、正確に実行する事ができない時に、脳からの伝達に対する答えをを欺く形で人は動作をすり替えます。これがトリックモーションです。
 例えば、五十肩で腕のあがらない人に、腕を挙げて下さいと指導すると、身体を横に反らして腕を高く見せる動作をします。実際には肩関節の運動制限を受けていますので、挙上できる範囲は決まっていますが、それ以上挙げるという意識の中では挙上範囲を超えた部分を身体を横に反らして腕を高く見せる動作で代償してきます。これがトリックモーションの動作です。
 顔面神経麻痺の場合は回復期にこうした神経間の回復のばらつき状態があり、そのばらつきの状態ではこうしたトリックモーションが生じやすくなるのではないかと私は考えます。つまり神経回復期においての注意事項として、こうしたトリックモーションから共同運動の強調があるのではと考えています。ですから動くようになった動作を一生懸命優先して使う事によって、混線している可能性の神経ルートを患者が一生懸命動かしている状況があるのではと思われます。実際に医療機関の指導においては顔の運動をしなさいというだけで、その詳しい表情筋の動作を指導できていない事から、こうした状況に陥りやすいと考えています。

 内部的神経混線の可能性
 アブミ骨筋性(閉塞性)耳鳴り

 顔面神経麻痺におけるアブミ骨の問題については、まずそのアブミ骨の生理的機能を説明する必要があります。アブミ骨は耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)の1つで、中耳の中にあります。耳は外側から外耳(みみたぶ、耳の穴)、中耳(鼓膜の内側〜耳小骨、耳管)、内耳(平衡感覚をつかさどる器官がある)に分かれています。委細器官省略。
  アブミ骨は鼓膜が受けた音波を、アブミ骨底に集中し、音圧を約30倍にも増幅する器官です。そしてこのアブミ骨をコントロールするのがアブミ骨筋で、この筋を支配している神経は顔面神経なのです。コントロールとは過大な音波が鼓膜を振るわす時に、その振動を減弱させるためにアブミ骨筋が作動し、鼓膜からツチ骨、キヌタ骨と伝わった音波をアブミ骨を引き離す事でその調節をする仕事が、アブミ骨筋の仕事です。
 顔面神経麻痺による神経混線におけるアブミ骨筋性(閉塞性)耳鳴りは、このアブミ骨筋のコントロールの不安定におけるものと解釈できますが、このコントロールの本来主軸となるのが反射的仕事における音圧の調整なのですが、顔面神経支配(運動神経)である事と骨格筋(横紋筋)を持ち合わせている性質上自動運動(自分で故意に動かす事)もできる機能も備わっていると考えられます。実際にアブミ骨を自由にならす事ができる人もいます。
 アブミ骨筋性(閉塞性)耳鳴りの症状として、口を動かすことにより耳に閉塞感(外部の音が低下)があり、「ゴッゴッゴッゴッ」という様の音が聞こえるというもので、 「何かが鼓膜を振るわす音」として患者が感じます。この音は、口角を横に開いた状態でキープする、またはウーっと口を尖らせるとこの音が持続します。
  これは、アブミ骨筋が反射的に働くのではなく、故意的に動かす事でアブミ骨筋が反応しているという事です。故意と書きましたが、実際にはみなさんは動かそうとして動かしているのではなく、共同運動により連なって動かされている意識です。つまり皆さんは、勝手に動いていると感じているでしょう。
 また、アブミ骨筋性(閉塞性)耳鳴りの症状を強調させている時に、耳の奥の方に突っ張り感を感じるという訴えを聞きますが、これは顔面神経の下顔面神経(下顎縁枝、頬筋枝、頸枝)と関わりを持つからであると思われ、首筋の筋肉の緊張とも関わりがあるのです。首あたりが引っ張られると感じる事がそれです。
 この様な症状を病院で話したが、「気のせいだ」などといって取り扱ってはくれないというお話を聞きますが、こうした症状が出てくるケースを多く扱っていないという事だけで、実際に顔面神経麻痺になった人の数パーセントと低い数字ではあるが、こうした症状も神経混線から出てくるものであると認識するべきだと思います。

 臨床的に診た、アブミ骨筋性(閉塞性)耳鳴り

 アブミ骨筋性(閉塞性)耳鳴りを訴える患者さんを臨床的に診てみると、顔面神経の回復の速度が遅いケースに多いと感じます。私の考えではこの原因はラムゼイハント型の後遺症ではと思います。水痘ウィルスの末端までの繁殖における神経損傷により、その神経再生の過程での混線ではと考えています。ゆえに回復の緩慢なタイプではこうした末端の神経再生に及ぶ過程の中で細部にわたる問題が起きるのではと思います。
 顔面神経麻痺における虚血型のタイプでは動脈系のトラブルで起こるものは、こうした後遺症は起きずにいるが、ラムゼイハント症候群におけるウィルス型のタイプは神経直接の損傷である事が解っており、神経を直接損傷するタイプの麻痺はこうした状況を回復期に起こしやすいのではと考えます。しかし、ラムゼイハントの診断についても、ベル麻痺との区別の難しいタイプもあり明確な判定が必要な事だと思います。
 アブミ骨筋性(閉塞性)耳鳴りは回復の初期段階から訴えます。麻痺の初期症状にみられる反響音が減弱してくる頃に、自覚的に感じる様です。こうしたことは顔面神経の回復を裏付けている事にもなりますが、一方では混線の問題提議でもあります。

 顔の病的共同運動強調と同調して、
 耳鳴りもさらに増大すると考えられる。

 こうしたアブミ骨筋性(閉塞性)耳鳴りもやはり、後遺症の1つで強調されるものです。実質的には筋運動におけるアブミ骨筋性(閉塞性)耳鳴りですから、顔が無表情の時には起こらない状況です。顔の筋肉の連動を最小限で押さえる事ができるならば、問題は軽度で済みます。つまり共同運動を強調させる事がこの症状の増大につながる事となると考えます。ここでお話ししておきたいのは、共同運動が混線させるという事ではなく、混線した状況が強調されるというお話であるという事です。

 ゆえに顔の運動や低周波の治療は
 こうした人には不適切だといえる。

 以前から私が指摘している、顔の運動や低周波の治療はこうしたことを強調させる事ににつながる可能性が大きいということです。



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 こんた治療院 <治療の窓>より抜粋しました。
 毎日、診察の合間にコツコツと執筆しながら早23年が経ちました。皆さんに1つでもお役にたてる事がありましたら、幸いと思いながら、今も尚治療の合間に書き続けている内容です。全国の方から色々な御質問などいただき、毎日心を込めて返信しています。そうしたみなさんの力で、今日まで一生懸命やっていて良かったと思うのは、インターネットのすばらしさの1つだと考えています。

 シリーズ
 顔面神経麻痺を考える

6.1 後遺症各論
<病的共同運動の強調>

7 小児の顔面神経麻痺
:ケア編

8 顔面体操と
顔面の運動は、
やってはいけない

10 顔の痛み 三叉神経痛

21 随意運動と不随意運動

23 やっつけに行く
今回は、
鬼軍曹の
独り言ですか?


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