私の考えにおいて、顔面神経麻痺における麻痺神経を自己運動を強要させる際に、すでにトリックモーションを起こさせていると考えます。この自己運動の強要にあたる部分が顔の運動です。手や足の末梢性麻痺においては、損傷していない神経を用いて損傷している神経を使わない動作を筋肉が表現する、この動作を見抜く事が我々プロのトリックモーションを見抜く仕事であり、評価の適正であるのですがその動作は支配神経の明確なポイントがあり、教育を受けたものであれば非常に安易にわかりやすいものであります。
しかしながら、顔面神経麻痺におけるそうした評価が難しい点は、1本の枝から分岐する3本の枝の支配という点です。臨床においてこの3本の枝が同時に回復するというケースは、早期においての回復のみであり、2ヶ月以上経過しているケースでは3本の枝が同時に回復している傾向にあるのは極わずかなものであるように思われます。つまり回復の良い枝と回復のゆっくりな枝が回復時期に存在してくるために、神経の枝の格差が生じてくる。この神経格差が顔におけるトリックモーションへとつながってゆくものと私は考えています。
顔面神経は脳神経が12対ある中の1つ、そしてそれが脳から末梢へと枝を伸ばし表情筋へとジョイントして脳が感じている事を表情を持って表す事になっています。また、その表情を表す筋肉を使って私たちの生活に必要な動作を自動的(反射的)に行ってくれる機能も備えています。自動的(反射的)に行う動作とは瞬きをする閉眼の動作などです。こうした動作を担当する顔面神経がトリックモーションを引き起こすのは、3本の枝を持つ事と、そのルートが狭く密接である事、そして回復の格差による筋肉の引き合いが脳神経からの伝達ルートを変えるために起こるものであると考えています。
トリックモーションは一般的に脳からの伝達事項に答えるために代償的に行われる動作です。脳からの伝達は人にとって絶対的服従である伝達事項ですから、通常はその伝達事項は間違いなく神経を通じで伝達されるべき目的地に情報が運ばれてゆきます。ところが、その情報が目的の場所に届く事はできても、正確に実行する事ができない時に、脳からの伝達に対する答えをを欺く形で人は動作をすり替えます。これがトリックモーションです。
例えば、五十肩で腕のあがらない人に、腕を挙げて下さいと指導すると、身体を横に反らして腕を高く見せる動作をします。実際には肩関節の運動制限を受けていますので、挙上できる範囲は決まっていますが、それ以上挙げるという意識の中では挙上範囲を超えた部分を身体を横に反らして腕を高く見せる動作で代償してきます。これがトリックモーションの動作です。
顔面神経麻痺の場合は回復期にこうした神経間の回復のばらつき状態があり、そのばらつきの状態ではこうしたトリックモーションが生じやすくなるのではないかと私は考えます。つまり神経回復期においての注意事項として、こうしたトリックモーションから共同運動の強調があるのではと考えています。ですから動くようになった動作を一生懸命優先して使う事によって、混線している可能性の神経ルートを患者が一生懸命動かしている状況があるのではと思われます。実際に医療機関の指導においては顔の運動をしなさいというだけで、その詳しい表情筋の動作を指導できていない事から、こうした状況に陥りやすいと考えています。