水痘ウィルスは、上記に述べた通りに神経節という部分に平素は潜伏して人間と共存しているウィルスであるが、何も顔面神経の膝神経節のみに潜伏しているだけではありません。そのため顔面神経のみ単独で麻痺を起こすだけでなく、同時に反回神経麻痺として、片側の声帯の麻痺が起きて声がかすれる、前庭神経障害として目眩(めまい)が起きる、三叉神経痛として顔に痛みが出るなどのケース(多発性脳神経障害として)もあります。単独では肋間神経に起こる帯状包疹、下肢に起こるものは坐骨神経にも障害を起こします。
また、水痘ウィルスは末梢神経のみを侵すウィルスではないこともお話しいたします。
水痘ウィルスは中枢神経系合併症として、1つは小脳炎に注意が必要です。小児の初期感染では急性小脳炎を起こす事もあります。
2つめは 再活性した水痘ウィルスが原因で血管炎に伴う脳梗塞を小児や成人に起こすケースです。
特にこのケースは再活性した局所に注目しなければならず、それは顔面部であること、そして先に、三叉神経痛も水痘ウィルスで起こると書きましたが、この三叉神経痛でも水疱が帯状包疹として、三叉神経
第1枝(V1)領域に起こったものは特に注意が必要で、成人においては脳梗塞を数週間経過で合併発症する事があるので、急性期には引続き医師の経過観察が重要です。
ラムゼイハント症候群と診断された、顔面神経麻痺においても同様の注意は必然の要素と考えて欲しいと思います。そして、こうした事も念頭に入れて、医師が経過観察中に診ていて下さるというお話として書き記しておきます。また、小脳炎は自己免疫疾患で、ギランバレー症候群、フィシャー症候群などの問題ですが病原体としての候補として水痘ウィルスも昨今は考えられている様ですが、原因が証明できないのが現状です。
但し、非常に不思議なのは、ほぼ局所の部分的な水痘ウィルスの増殖障害であるという事で、全身に行き渡って神経の増殖障害を起こさないのは、なぜなのかという疑問もあります。血清検査上は反応しているのに、発症部位は局所であるということです。これは、今後解明されてゆく内容の1つであろうかと思います。 |