今回のお話は、パソコンによる疲労を考えてみたいと思います。今や会社では、パソコンを使用する人の割合いが100%に近い状態です。また私の様な自営業でもパソコンをなんらかの形で使用している人が増えているのも事実です。そんな中で私の治療院に来院する人の凝りも、平成時代の身体の不調を訴えていると感じています。もちろん私もその中の一人として自覚した症状などを分析しながら今回のテーマを考察してゆきたいと思います。

治療家の私に訴える皆さんの共通点は?

 ここでは皆さんの訴える症状が、肉体的変化(筋肉の硬結や姿勢など)としてどの様に表れているかをお話してみたいと思います。もちろん職種によって作業時間の違いや、操作手順の違いなどがありますが、共通する事としてモニターを見るという事と、キーボード操作、マウスの使用というこの3つの条件に加えて、坐位の姿勢(デスクでする作業)を共通項と定めた上でお話を進めます。

 目の疲れ

 目の疲れとして具体的な自覚症状には、目がしょぼしょぼする、痛くなる、焦点があわなくなる、涙が出てくるという訴えが多いです。こうなってくると、自身は思わず指でまぶたを擦ったりして自然にマッサージをして無意識に手当てをしだします。
  これはモニターを見る目が疲労を起こしている事には違いはありませんが、目だけではなく首や上半身の柔軟性が失われた事も大きく影響します。というのも、例えば目の焦点が微妙にあわなくなると、人間はモニターとの距離を数ミリから数センチ近くしたり離しながらその焦点ポイントを調整してきます。まさにビデオカメラのオートフォーカス同様に、そのピント合わせに早急に対応する能力があります。
  この能力の内、比較的に目の疲労がひどくない時には、身体の姿勢をあまり変える事無く、眼そのものの能力にて調整が可能です。しかし目が疲労してくると人はもっと良い調整方法はないかと無意識にその調整方法を模索し始めます。そしてこの状態が続くと目の疲労を自身が自覚し始めてきます。
 では具体的には第2段階としてどのようにそのフォーカスの調整をサポートするのでしょうか?これはみなさんが写真を撮る時などに距離をとる行為と同じく、私達はモニターと目との距離をとる事で、フォーカスをより安定したスピードで行う事をするのです。そしてその最も重要な役割を果たしているのが、頚椎のお仕事です。

 首の疲れ 頭の重さは?

 首の疲れとして具体的な自覚症状としては、首の凝りや痛み、頭部と首の接点の凝りなどがあげられますが、この頃になると合併的に起こるものもあります。というのも首の上部には頭部というものがあり下部には肩という部位がありますので、みなさんの御想像のとうりに頭痛や肩こりへの移行が考えられますね。
 ここでちょっと脱線しますが、頭の重さはみなさんどのくらいの重さか知っていますか?自分の体重の約13%が頭の重さと言われています。体重48キロの人は6.24キロ、体重65キロの人は8.45キロという重さです。どうですか?想像以上でしょう。
 そしてこの頭の重さをどの様にして支えているかというと、実は頚椎という首の骨です。この頚椎は7つの骨によって頭の重さを支えています。この骨は正面や後面からみると真直ぐ積み重なって見えますが、実は横から見ると前方へ軽く彎曲しています。解剖学的にみるとこの彎曲が実は頭の重さを上手に分散し、ストレートに一点に集中して頭の重さがかからないようにしているのです。
 目の疲労が第2段階になるとこの頚椎を微妙に使って、首を動かしながら目の焦点を合わせてゆくという動作が普段より頻繁に行われる様になってきます。そしてこの頚椎を動かし安定させるのが首や肩にまとわりつく筋肉のお仕事なのです。

 首と肩の疲れ 

 お仕事中に頻繁に首が凝ってくると、首をまわしたり手をあてて揉んでみたりするようになります。すると目の疲労は第3段階で、自身の疲労感も“疲れがたまってきたかな?”という言葉で表現する様になってきます。
 この時の首の状況は頚椎を動かす筋肉が疲労を起こし、頚椎の動きが悪くなってきてきています。そのため頚椎が、頭を支える事や目の疲労をカバーするなどの状況にすんなりと応じなくなってしまいます。それどころかこの筋疲労は頚椎を支持する事が精一杯になり、その筋肉の弾力を失ってきます。これが首の凝りということです。この場合の弾力を失うというのは、筋肉が硬くなる事でその効力を失うという事です。
 さあこうなってくるともう事体は肩へと移行してきます。お坊さんの袈裟(けさ)の様な形をした菱形の筋肉を僧帽筋と呼んでいますが、この僧帽筋は後頭部を上部として肩の先(肩峰部)に横に広がり、その下部は胸椎全体に広がっています。この僧帽筋は浅背筋といって表層を被う筋肉ですが、この僧帽筋のお仕事が今回のパソコンによる疲労の一躍を担うポイントです。

 僧帽筋 (そうぼうきん)
僧帽筋は主として肩甲骨を動かし固定します。
 僧帽筋は筋肉の線維走行が広く異なっており、運動の方向がそれぞれ異なっています。この運動方向を上部、中部、下部と3つに分けて説明すると、上部が収縮すると肩甲骨と鎖骨の外端が挙上し、肩をすくめるといった運動ができます。中部は両肩を結ぶ様に水平に走る筋線維ですので、気をつけの姿勢で肩を後ろに引く時に収縮します。この時には肩甲骨は身体の中心に向かって引き寄せられ固定されます。下部が収縮すると肩甲骨を回転させ腕を挙げる運動をサポートします。下部の最端は第12胸椎まで伸びていて、その直下は腰椎ですのでかなりの広範囲であることが解ります。またこの下部の僧帽筋は頭を後屈させたり、頭を回頭するのにも関与します。

 肩から腕の疲れ

 僧帽筋のお仕事には肩甲骨を動かし固定するという動作があります。私達のパソコンの作業としてキーボード操作とマウスの操作はなくてはならない動作です。この作業の疲労は指先や肘や腕の疲れとなって、肩関節から肩甲骨を取巻く筋肉への波及が大きく疲労へ影響しています。
 一般的にはパソコン関係の疲労を目から考察しがちですが、実はそういった人たちの身体を治療しはじめると、ある共通した筋緊張を捜しあてることができます。それが今回の私のお話の最大のポイントなのです。
 主にマウスを使った動作は、腕を身体から少し離した状態で、肘関節を曲げてマウスに円運動を与えます。この時の肘も同じ様に円を描く様に回転しています。この動作は上肢帯と呼ばれる肩から腕にかけて大きな負荷をかけていると考えられます。
 例えば、椅子の上にあぐら(胡座)をかいてマウスの操作をしてみてください。マウスを動かす度に私達のからだが揺れる事に気がつきます。しかし、同じ状態で鉛筆で字を書く動作をしても、基本的に手首の運動だけでそれほど私達のからだが揺れない事に気がつくはずです。またこの様な動作は窓ふきや、車のワックス磨きなどで大きな動作として実演していますが、逆に細かな動作で1日数百回を超えるマウス運動は、労作と考えるには充分であるものと思います。

 マウスを使った運動

このマウスを使った運動は全く新しい運動と考えるべきなのか?
 マウスの操作は手首を固定して、肘から先を回転させて使います。この運動に類似したものが実は生活の中でも起こっています。例えばテーブルを拭くという動作です。窓ふきや、車のワックスがけも手首を固定して前腕を回転させてお仕事をします。お習字の筆もこの様に扱う動作が含まれますね。
 では、マウスを使った運動と他の類似運動との比較はどうでしょうか?まずは回数の違いです。もちろんお仕事ですからその回数はマウス作業に軍配が上がりそうです。また、モニターと手先の位置を考えると自動車を運転している様に、目先と手の位置が違っている事もわかります。ポインタを追うという動作と手を動かす動作を同時に別の場所で行っているのですから、これも他の運動とは少し違ってきます。そしてパソコンの作業は総体的に固定的で体幹が動きませんが、お習字などの座業を除いて他の運動は移動という動作が含まれます。
 やはりマウス運動はパソコン独特の新しい運動と考える事がいえるのではないでしょうか。またこれらの要素がどうやら疲労とのつながりを意味している様に私は考えています。しかし、この様な動作も時代と共に、また新しい動作に置き換えられてゆくものでありそうですね。

 小まとめ

 この様なパソコンを使った動作で、おおまかな疲労の始点となる場所を説明しましたが、今度は実際にそういった疲労が、みなさんの訴えではどの様な箇所に多く集中しているかを考えてみたいと思います。
 また、マウスを使った作業に関して実は最大の関心を示している私には、メールでいただいたみなさんの御意見が役に立っています。みなさんに感謝をしつつ紹介したいと思います。


 皆さんの声

 会社員Aさん 39才 男性

 私はパソコン歴15年です。先生のコンテンツの腰痛を考えるから入って、肩こりを考えるなど非常に参考にさせていただいてます。今回新しいコンテンツ「パソコンの疲労」を作成中との事で、相談を兼ねて私の悩みの種を打ち明けようと思います。
  私は広告代理店に勤めるものですが、この7年前からある症状に悩んでいます。それは右の肩甲骨の周りにへばりついているもの?張った様な重い感じがずっと取れないでおります。先生にマウスを使う様になってからでは?と言われるまでどんなものかと思って数週間いましたが、同僚にたずねると同僚も似た様な症状を持っているとの事で、マウスをいつから使い始めたのかという話になりました。もちろん以前はマウスとは無縁のパソコンを使っていましたが、新しいOSの登場で一気に今ではマウスを使った作業が主流になりました。操作時間の短縮には拍手ものだったなど話は別の方向へ行きかけたのですが、同僚が自分もその頃から左手を右肩にあてて自然に揉む様になったという話になって、話は肩こりの話になりました。新入社員はパソコンと言えばマウスはあたりまえ、私達の時代は丁度その転換期でバックアップもキーボードでやってました。今では考えられないほど大きなディスク使ってました。もちろん当時からパソコンをするようになって肩こりや目の疲れがひどくなりましたが、マウスを使う様になってからはどうやら右肩が集中して辛くなっている様に感じます。こんな話は参考になりますか。

 会社員Bさん  27才 男性

 パソコン歴13年の者です。父がそういった関係の仕事をしていましたので、私は実は中学生から使っていました。もちろん父親のお古ですが。当時はワープロに毛が生えた程度(今から考えると)の物でも友達からすごいと言われたものです。で、私がしていた作業はワープロみたいな事なんですけど。(笑)
 我家はそういった関係上、私のパソコンは全部父のお下がりでした。こんた先生に質問されて、はっと気がついた事が当時ありました。それは父が肩が凝ったといっては肩を回し、目が疲れたといっては冷たいタオルや目薬をつけていましたが、その様な一連の動作を母親が見ていまして、私も父と同じ事をしていると母が言っていました。私も無意識的にその様な肩を回したりする動作をしていた様です。今考えると慣れないだけではなくて、その作業の疲労という事を強調した方がよいと思います。
 ところで、先生よりマウスを使い出した感じを聞かれましたが、なるほど右の肩甲骨の周りにはいつも張った様な感じはあります。時々草野球をしますが、私は左利きなのでやはりこの疲れはマウスを使うものかと考え始めましたが、実際そうなんでしょうか?

 会社員Cさん 31才 女性

 私は一般業務でパソコンをあつかって7年が経ちます。もともとの肩凝り性に加えて最近は腰痛もひどくなりました。学生時代は運動部に所属しておりまして、マラソンなど長距離を得意としていましたので、仕事が終わると週3回はランニングなどしておりました。しかしこのところ残業がほぼ毎日あり、土曜日も午前中などは仕事場に出かける事も多くなりました。おかげでこの半年ほど家に帰るとバタンキューと眠ってしまう日が多くなりました。というわけで、現在すっかりランニングの習慣が無くなってます。私の所属する部は各人がすべてパソコンを使って作業しています。
 さて私もここ半年の残業の疲れか?それとも歳か?(笑)。右肩に重りが乗ったようで、肩甲骨の際というか丁度ブラジャーのラインで締め付けられる部分の上あたりが凝っているかんじです。先生のいうとうり手の届きにくいところがよく凝るんです。あーっ!じれったいという感じです。
 お昼休みに4人ほどリサーチ?してみましたよ。結果は似た様なところが凝る様ですが、それぞれ持病?が重なっているのか、もともとの体質が違うのか?自分が疲れのピークを感じる部位は首だったり、吐き気がしたりとバラバラですけど、業務中に疲れてくる部位は同じ様なところでしたよ。
 みんなとも話したんですけど、どうしたら解決するのかその解決法を是非伝授お願いいたします!


 みなさん御協力本当に感謝いたします。忙しいさなかにも、こんた治療院を気にかけていただいて恐縮です。その他紹介はしてありませんがメールをいただいたみなさんの意見を参考にしてあります。また、来院された方の御意見も他行で随所で参考にさせていただいております。


 みなさんが訴える、
そのつらい場所はどこなのでしょうか?
上の図は浅背筋(せんぱいきん)の代表的な筋の部位と名称です。比較的浅い位置に存在する背中の筋肉ですので、私達が外面から指で押したりすると指の下に感じる事ができる筋肉です。
 普段自分が疲労を感じる部分を捜してみてください。
 私の見解 

 パソコンを使った疲労は、マウスを使った作業で、近年は筋疲労への影響が集中して特殊な場所に出ていると考えます。私はこの事を職業病として取り扱うと共に、こういった職業をしていることを意識しながら治療を施しております。そしてその際にみなさんに共通して訴えの多いのが、右の肩甲骨のきわ、特に僧帽筋と広背筋そして菱形筋の関与する部位に集中しています。このうち僧帽筋のお仕事についてはSTUDYで解説しましたがその他の筋肉の連係によって必ずしも単独の筋肉の疲労ではない事が解ります。
 また、首や肩や肩甲骨や腕も、もちろん疲れを呈して来ますが、今回のパソコンによる疲労では、私はマウスを使った疲労に注目した関係で、スポットを当てのは肩甲骨の周囲の凝りになりました。
 実際に治療にあたってみると、みなさんの意見と一致できたのが何よりの臨床的見解に基づいた意見であったと思います。

私が勝手に命名してしまいました

 黄色のをマウスの穴(あな)と名称し、その部分にマウスの影響で特に凝りが出来たものをそう呼ぶ事にしようと思います。このマウスの穴は肩甲骨のきわに出現し易い特徴を持った凝りです。また、自分の手では届きにくい事も特徴的です。

黒●の部分

 黒色の●は一般的にもひどく凝る場所です。もちろんパソコンのみならず、他の作業でも凝る場所です。今回のケースでも重なる場所でもありますが、肩こりの問題ではこういった場所も好発部位です。

 まとめ

 最近は私も気になりだしてきたこの右肩の肩甲骨の周りの<マウスの穴>は、やはりパソコンを使う人は気になっていたに違いないと思えてきました。マウスの穴を命名するのは、いささかやりすぎか?と思いますが、私にとって忌々しい問題が、実はパソコンを使って仕事をする方に共通していたので、これはひとつ名前などつけて追求してみようかと思いました。もちろん私もそういった人の為に、マッサージや針治療を工夫して提供しています。私達の治療も時代の疲労を的確にとらえて理解し、治療するといった事は当然行うべき事です。そういう意味では職業を知る事はとても大切なものだと再度認識しています。私のカルテにも職業欄がありますが、私自身みなさんの行っている職業をもっと理解できると、良い治療家になれるのではと思っています。
 普通ならばその<マウスの穴>の解決策をもってまとめに入るものですが、コンテンツが長くなってきたのでその対策はパソコンによる疲労を考える2でお話します。えっ?2も作るの?もう作ってあります!


 関係する執筆内容のページ

 コンテンツ






神奈川県小田原市栢山2910-11
こんた治療院 tel 0465-37-2299



当サイトに掲載のイラスト・記事・写真などの無断転載、無断使用を禁止します。
Copyright (C) 2019 こんた治療院 All Rights Reserved.