顔面神経麻痺を考える19
 神経麻痺回復の条件

 麻痺した神経が欲しがっているもの
 
こんた治療院

 

 麻痺した神経は、どのようにしてその修復に至るのか。どの様な条件が整う事によって、神経回復に向かうのかを考えてみたいと思います。私のコンテンツは総て、医学を学んだ事のない皆さんに解り易くが基本ですので、専門家の人には物足りないかと存じます。  
顔面神経麻痺をやっつけにゆくために
 

 一般的に、末梢性神経麻痺になると神経が麻痺するだけでなく、支配下における二次的問題が起こって来ます。そして、その観点からフィードバックして、それらの二次的問題の改善は本来の神経回復の条件に合致するとも考えられます。
  それゆえに様々な治療法が考えられて来ましたが、この末梢性の顔面神経麻痺における自然治癒率の高い事で、重症となる 数パーセントのケースではそのほとんどが成す術も少なく後遺症に悩まされているのが現状です。
 ファーストエイド、つまり初期治療の段階でどれだけの事ができて、不全麻痺なのか全麻痺なのかによってその予後の決定を早々にする事が多いのも、私にとってはとても不満の種であるとともに、病気になった皆さんの治そうとするモチベーションも担当する医師からの発言の仕方で、根元からポッキリと折ってしまう事が多いのです。
 私たちはこれから病気と戦うのですから、どうかその心まで傷つける事の無い様に、私たちはこの先どんな事が待ち受けていても、この顔面神経麻痺をやっつけに行くために全力で走ったならば、その結果がどうであれ精一杯の笑顔が自分に戻ってくるのです。

 
早期血行の回復
 

 1つ前置きとしてお話をしておきますが、末梢性顔面神経は他の神経より最も再生効率に優れた神経環境であるという事はまぎれもない事実であるということです。
 この再生効率に優れた神経環境とは、具体的にどんなものなのかをお話しいたします。まずは血管系のお話ですが、非常に顔の血管は網の目の様に張り巡らされており、各器官(目鼻口など)の需要に大きく答えています。そのために、細かい血管からの役割も無駄が無く、各組織への血液の搬送と受取も密接に行われています。
 例えば、常識的な環境の中の地球上の気温では、身体に衣服を着る様に顔を覆う事なく過ごせるのは、一定の温度環境調節を血管の運動により逸早く担う事ができるからなのです。そしてこの事は、私たちの一番大切な脳の環境を守る事に正比例しています。脳からすると顔に行く血管は家庭のエアコンの様なもので、脳にとっても重要なものです。特に脳は熱に弱いために、その冷却には血液のクールダウンが必要ですから、こうした事をサポートしています。
 こうした性格の顔の血管が、顔面神経をバックアップしているために、神経の回復には大きな味方になってくれるのです。忘れてはならない事として、末梢の顔面神経は脳の直属の部下であり、脳にとって大事な末梢神経であるがゆえに、そのサポートも他の神経より充実していると考えてよいのではないでしょうか。
 そして、現実に顔面神経を麻痺した直後の、皆さんの患側の顔は健側に比べて皮膚温が低下している事に気がつきます。それは正に血行の不足を意味しており、血行回復の手段を取る事が必要だという事を意味しています。

 では、鍼治療で鍼を刺しただけで血行は良くなるのでしょうか。私の答えはNO!です。そこに血行を良くする為のテクニックと知識が無ければこうした術後直後に顔に温かい感じが出て来ません。私は顔面神経麻痺を治す為の1つの手段として、鍼治療を選んで皆さんに提供していると解釈していただきたい。こうした血行改善ができないのならば、私は別の方法を選んで顔面神経麻痺の治療の為の手段としていたと思います。

 
血液(血液成分)にも、がんばって欲しい
 

 皆さんは、赤血球という名前を聞いた事があると思います。この赤血球の重要なお仕事の中に、酸素と二酸化炭素の運搬があります。ヘモグロビンというタンパク質が、赤血球の細胞質の主要な構成で、これが酸素と結びついて各組織へと新鮮な酸素を送り届けるのが、赤血球の今回のお話に重要になるポイントです。
 麻痺した神経は病理学上では、神経変性(ワーラー変性)を起こしています。この変性した神経は、もちろん自力での再生を始めますが、その神経本体は低酸素状態にあり、外部の助けを求めています。その助けとは、赤血球の運んでくる新鮮な酸素なのです。麻痺した神経に酸素を送り込むという方法は、神経にとって正に助けとなるのです。
 ビタミンB12は、血液を造ったり、神経の再生を促したりする事で皆さんが処方されて飲んでいますが、それ以上に神経を助けてあげる事に必要なものが、この赤血球の運ぶ酸素です。
  この赤血球は狭い所でも容易に酸素を運ぶ為に、ある特殊な変化をします。赤血球の大きさは直径約8μm厚さは2μmですが、自分の大きさの半分の狭い所にも、赤血球は変形しながら随所へと進んでゆきます。これを赤血球変形能といいます。この赤血球の変形能を高める事、すなわち赤血球変形能を手助けをする事が治療上に浮かぶ事は医学を学ぶものであれば当然と考えます。
 さらに、この赤血球はATP(アデノシン三リン酸)が豊富であれば活性も非常に良い状態にあります。ATPという物質は、『生体のエネルギー通貨』といわれて、私たちの生体の回復に重要な役割を担います。お薬として処方された『アデホス』は、このATPを補う薬です。そしてこの顔面神経麻痺の回復にもこのATPが大きなポイントになっている事は、私の臨床経験からも非常に興味深い経験があります。軽く触れておきますが、妊婦の顔面神経麻痺の回復に非常に関係していると私は考えていて、同時にラムゼイハントの発病原因のカギを握るのも妊婦さんの身体のシステムだと考えています。機会があれば、この内容においても書いてみたいと思いますが。
 この節のまとめとして、麻痺した神経が回復の為に欲しがっているものは、新鮮な酸素である事、その新鮮な酸素を運ぶ為に赤血球が活性化する必要があり、そのためにはATPが豊富に必要であるというお話です。

 しかしながら、麻痺の原因により赤血球の行く手を阻むものがあり、その壁を乗り越えるべく赤血球が変形し、神経に到達してようやく低酸素状態を改善してくれます。

 
その乗り越えるべき壁。
麻痺した神経へ通じる血管は圧迫されている→血管の拡張が必要
 

 顔面神経は、この様な麻痺状態におかれていると、神経へ通じるための血管も圧迫されて、つぶれており、通常の血液量の供給ができていないものと考えます。その根拠となるものが、神経の周りに生じる浮腫です。こうした浮腫の状況が逸早く改善できているという事は、血管の形状が理想的に回復して、その循環をまっとうできていると考えます。しかしながら、毛細部の影響というのは実にμmの世界ですから、肉眼で浮腫が改善されているといっても、まだまだ目に見えない部分ではこれからの修復作業です。
 そのためにも、顔面神経麻痺の治療の共通項として、赤血球の変形能を高めること、ATPが豊富である事が必要であり、こうした事が神経の回復に強力なサポーターとして根本的に必要な事であると私も考えています。
 あまり難しい話はこの辺で。

 
麻痺した神経支配の筋肉 
 

 運動神経が麻痺した神経の支配する筋肉は、筋弛緩を起こして張りのない状態で定位置に存在します。そうした筋肉は少なからず神経や血管を圧迫し、外的には患部付近の環境に低温状態をもたらします。こうした文章を書くと皆さんは外部から温めると良いのではないか?と考えてお風呂などの療養を考えがちですが、発病初期の状態や炎症所見がみられるケースではこの外部的温熱は逆効果になるのです。神経や筋肉はこうした場合には、自然に血管の運動や血液が運ぶ温度にもたらされた適温を好むのです。
 1つの例として、腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛の所見から神経への影響を考えてみます。腰椎椎間板ヘルニアというものは、椎間板が変性して突出(ヘルニア)を起こすもので、その所見は圧迫と炎症です。この圧迫とは突出した椎間板の一部が、下肢の神経である坐骨神経などを圧迫するのです。そのために神経の痛みとして支配下の下肢に痛みが出るのです。そして炎症とは主に椎間板が突出した局部を中心に起こっています。
 この例で神経の状態はどうなっているのかと言えば、圧迫の状態に応じて神経の健康状態を悪化させて、神経の変性という状態にまで発展してゆく事が多々あります。こうした神経の状況で上記に書いた、入浴を長時間行うと
更に下肢にだるさが起こり、かえって症状が悪化してしまいます。1つは炎症所見があるためという事は、皆さんお解りのとおりですが、もう1つの理由として坐骨神経は運動神経と知覚神経の2つの役割を担っており、その運動神経の役割においての影響がこうした、下肢のだるさにつながってくるのです。更に言えば、不全状態の運動神経に温熱を外的に加えすぎると、その支配下の筋肉は収縮活動も健全ではないために、筋疲労として結果を残す事が充分考えられるというお話です。
 そして、この事からも顔面神経の支配する筋肉にも同様の事が起こると考える事が充分であると思います。ですから、医学として治療を行う場合にはこうした経過観察のもとに、みなさんに向けて指導をしてゆく事が、治癒への方向性を高めてゆきます。その事をふまえての温熱治療ならば効果は期待できると思います。生兵法はケガのもとというお話にも通じますね。
 筋弛緩している筋肉にマッサージを施す場合にも実はこうした配慮が重要です。そのために私たちの仕事は国家資格として存在しているのですが、その 力(圧の加え方)の程度や時間などに細かい設定をします。顔の場合にはその設定はそれほど難しいものではないために、私は顔のマッサージの仕方をコンテンツで紹介していますが、関節のある手や足などの場合は、関節などの拘縮も予防するためにテクニックが複雑になります。しかし、そう難しくないからといって、顔のマッサージを必要以上に時間をかけてやる事はしないでくださいね。

 
それと、今回のテーマの麻痺した神経が欲しがっているものの一番大切なもの
 

 それはあなたの、顔面神経麻痺をやっつけに行く勇気と自分への優しさです。
これを持って行く事がきっとあなたの助けになるでしょう。そして、神経の回復に拍車をかけてくれるはずです。それはなぜか?多くは語りません。私たちは生きている人間だからですね。
 インターネットで知識ばかり詰め込んでも何の解決にもなりません。 あなたの勇気と自分への優しさが再びもどることが私の真意です。

 

シリーズ 顔面神経麻痺を考える

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顔面神経麻痺を考える1 総合

 顔面神経麻痺を考えるtop

顔面神経麻痺を考える2 ケア編

 顔面神経麻痺のケアについての特集をしています。お口の体操やマッサージの仕方を載せてありますので、御覧になって下さい。

顔面神経麻痺を考える3 心理編

 顔面神経麻痺を考えるをUPしてから、皆さんからの相談メールが連日の様に届きます。その中には、実は自分の子供、親や兄弟、友達や恋人を心配してどの様にケアしてゆくのか?どう接していったらよいのか?という本人以外の人の問い合わせも多いのです。
 そこで、私が顔面神経麻痺になった時の経験を生かして、お互いにどう接したらよいのかを考えてみました。

顔面神経麻痺を考える4 原因究明編

 皆様の疑問や相談に関してもっとも多かった内容をピックアップして考えています。それにより少しでも皆さんの不安要素の解決につながるお手伝いができたらと思います。

顔面神経麻痺を考える5 後遺症編1

 顔面神経麻痺の後遺症についてのお話です。顔面神経麻痺の患者側にとっての最大のポイントは、後遺症といっても過言ではありません。医療側にとってはその原因追究が主たるもので、症状が落ち着くと神経麻痺の回復がどれだけか評価表をつけるだけの作業の様子。『調子はどうですか?』と聞かれ、答えると『これには時間がかかりますからね〜っ』という返事。
  本当にこんな事で神経は回復するのか?自然に回復するのか?…。

顔面神経麻痺を考える6
 後遺症編 2 
病的共同運動を回避する

 顔面神経麻痺の回復期に起こる共同運動についてのお話、後遺症についての第2弾です。顔面神経麻痺を考えるを執筆する様になって、平成13年の11月にUPした顔面神経麻痺についても今回で6枚目のUPになります。
 病的共同運動については当時からたくさんの質問メールが届いていました。来院される患者さんにも質問を受けてお話をする事も当然多くありました。そんな病的共同運動についての問題は非常に複雑な内容です。

顔面神経麻痺を考える6.1 
後遺症編 3 
病的共同運動を考える

 なぜ?低周波や顔面の運動(自動運動)を推奨しないのかを書きました。実質的に後遺症についてのお話で第3弾です。小児の顔面神経麻痺と合わせてみていただくと理解しやすいと思います。
(H18.3.10up)

顔面神経麻痺を考える7 
小児の顔面神経麻痺 ケア編

 小児の顔面神経麻痺についてケアを中心に書きました。子どもの辛さを具体的に生活を通じての御両親へのアドバイス事項です。大人が子どもの辛さを理解する事で、顔面神経麻痺をやっつけるための内容です。(H18.3.5up)

顔面神経麻痺を考える8 
顔面体操や顔の運動について

 顔面の体操や運動はいけないというお話です。顔面神経麻痺を考える6の問題で病的共同運動を強調させる事なく、回復の経過をみつめる事が重要であると考えています。(H19.3.22)

顔面神経麻痺を考える9 
顔の表情

 顔面神経麻痺になったら、ポーカーフェイスで過ごせという指導に疑問あり。心の問題も抱えるこの病気に、更に追い打ちをかける事は許されない!(H19.5.26)

顔面神経麻痺を考える10
顔の痛み 三叉神経痛

 顔面神経麻痺に出てくる顔の痛みについてのお話です。発症時から出てくる痛みと神経回復と同時に出てくる痛みのお話です。発症時から出る顔の痛みは大勢の人が訴えますが、その痛みはすぐに加療とともに落着いてきます。しかし、三叉神経痛として痛みの出るケースもあるのです。(H19.9.24) 

  顔面神経麻痺を考える<番外編>です。
 (H19.10.27)

顔面神経麻痺を考える12
トリックモーションと共同運動
アブミ骨筋性閉塞性耳鳴り

 アブミ骨筋性の耳鳴り(閉塞感をともなう)について書いています。(H19.12.14)

顔面神経麻痺を考える13
妊娠 出産

 顔面神経麻痺になった、妊婦さんや産後のお母さんのためのコンテンツです。(H20.1.14)

顔面神経麻痺を考える14
小児の生活指南、マッサージ

 小児の顔面神経麻痺2。生活指南と小児の顔のマッサージを書いています。

顔面神経麻痺を考える15 
ホウレイ線 について

 病的共同運動の強調と顔の運動による各筋肉の強調などを考えてゆく上で、こうした状況を少しずつお話ししてゆきたいと思い書いてみました。(H21.4.1)

顔面神経麻痺を考える16
原因究明編2

 ベル麻痺(原因不明)と診断を受けていても、経過の観察次第では違ってきたということもあります。こうしたケースなどは受診した科によって初期診断、検査方法が違う為に起こってきます。私たちは2度とこの麻痺を起こさない様にする為に、自分の麻痺の原因を追求せねば予防には繋がりません。(H22.6.6)

顔面神経麻痺を考える17
末梢性顔面神経麻痺の神経再教育

 末梢性顔面神経麻痺の神経回復時における、病的共同運動の強調をおさえること、これすなわち神経再教育の仕方をどうするかという事を考えなくては治療に結びつく事をができないというお話です。(H22.12.20)

顔面神経麻痺を考える18
回復の兆候

  私の臨床における主観的内容です。麻痺した神経が動き出す前に回復しているとなぜ解るのか。(H23.9.1)

顔面神経麻痺を考える19
回復の条件

 末梢性の顔面神経麻痺を回復させるために必要な条件を考えます。(H23.12.2)

顔面神経麻痺を考える20
不全麻痺と完全麻痺

 末梢性顔面神経麻痺の不全麻痺と完全麻痺について書いています。(H24.6.16)

顔面神経麻痺を考える21
随意運動と不随意運動

 顔を動かすという筋肉 表情筋。その表情筋は随意運動と不随意運動の2つからなる運動を表現している。 (H25.11.21)

顔面神経麻痺を考える22
水痘ウィルス

 水痘ウィルスに関して、私流の解説をしています。(H26.6.18)

 こんた治療院の治療室で、皆さんとお話している事など書いてみました。(H26.10.22)

顔面神経麻痺を考える24
食生活

 食生活について書いてみました。(H27.2.16)

顔面神経麻痺を考える25
三叉神経の損傷による知覚障害

 顔面神経麻痺を考える25  顔のしびれを伴うもの 三叉神経の損傷による知覚障害(H30.4.25)

顔面神経麻痺を考える26
鍼治療と顔面神経麻痺 1

 鍼治療と顔面神経麻痺 1 (R1.10.7)

顔面神経麻痺を考える27
鍼治療と顔面神経麻痺 2

 鍼治療と顔面神経麻痺 2  (R2.10.)

 私自身も、この目に見えない得体の知れないストレスにもちろん困惑した事もありますし、他人から見れば何だそんな事と思われる内容であったと思います。いま冷静にその時の状況から分析すると、自分から見ても小さい事であったと認識しています。
 ではなぜそのような事をストレスとして受けとめてしまったのか…、をまずは初めに考えて行きましょう。
 顔面神経麻痺について専用掲示板(BBS)をもうけました。いろいろな事をみんなで話し合えるところを作ってみました。顔面神経麻痺を考えるを読んだ後にでも立ち寄って下さいませ。
  たくさんの人の書込みありがとうございます。みなさんが心から勇気が持てる掲示板になりました。本当に感謝いたします。
 鍼治療が苦手だという気持ちは充分解ります。
ご相談などありましたら、<治療の窓>にメールボックスが設置してあります。



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