何らかの理由において、神経麻痺を起こした末梢神経は変性(健康な状態にない)を起こしています。不全麻痺の場合はその変性の程度も低く、回復に向かう期間も短時間であり、早期に回復します。しかしながら、完全麻痺における神経の状態は、その神経の変性も原因によっては神経鞘(しんけいしょう)と呼ばれる中心部のダメージが大きい場合は神経が筋肉を起動するまでに3ヶ月以上もかかり、同時に神経の再教育というメニューを必要とします。
この神経再教育のメニューは、皆さんが口にするリハビリテーションであり、こうした訓練は日常の生活動作を逸早く実現させる為には必要な訓練とされています。この神経再教育という言葉は、神経筋再教育とも同じく考えて意味は同じです。運動神経の回復とは筋肉を使った動作の回復という事で、イコールとして考えますが、<顔面神経麻痺を考える>の中では、私は神経再教育という言葉を選んで使って行きます。
なぜ、この神経再教育が神経の回復の為に必要なのか?といえば、神経の回復には限られた時間とされるものがあるからなのです。それを医学では、プラトーという言葉を使って回復時間の終末を表現します。本来、口語におけるプラトーの表現は、スランプ状態や停滞を意味する言葉です。神経回復の上昇曲線が、すでに頂点に達したということをここでは表現します。
末梢神経の麻痺の場合は原因によって各部それぞれにおける回復のプラトーは細かく違いを見せるものの、おおよそは発病後1年を境に大きくその回復の確率は大きくダウンしてきます。麻痺した神経回復の頂点ともいう時期に、予後良好つまり神経回復の完全修復がなされることを我々は願って治療をしてゆくのです。
神経再教育の期間は、まずこの神経回復がプラトーに達する前に行う事が理想的であると考えているのが現代の医学の考え方であるといえます。それは、特に運動神経の場合は、支配筋の筋萎縮、および関節拘縮、強直を防ぐ事を同時進行で行う事をしないと、神経回復に見合った運動が失われる恐れがあり、末梢神経麻痺の評価では、神経そのものの回復を筋力や運動評価にて判断してゆくのが現状であり、神経本体の回復の割合を示すものはないゆえに、臨床的には筋運動が理想的に行われる事において、神経の回復と見なすとしています。そのために、筋力の低下を最小限に食い止め、神経本体の回復を待って同時に働きをさせていこうとする事がこの時期には必要であり、これを治療として考えているのです。
また、神経が回復してもその筋肉を動かす為の伝達機能訓練をしていないと、神経はその伝達を筋肉に伝える事は容易にはできなくなる事もあり、そうした神経再教育の期間設定をプラトーに達する前に行う事が望ましいと考えます。