現状ですと、顔面神経麻痺の際に合併して起こる頑固な三叉神経痛に関して、医師らの認識もあまり多くなく、こうした内容の相談もメールに寄せられます。医師に「顔面神経麻痺では顔に痛みは出ないよ!」という言葉で顔の痛みを理解してくれないという内容です。恐らく、ラムゼイハント症候群の所見及び多発性脳神経障害(前庭神経障害=めまい、迷走神経麻痺など)の所見が診られなかったためにそうした解答をしたのでしょう。
私の臨床経験ではこうした合併して起こる三叉神経痛も年間2、3名の割合で加療しています。そうした皆さんの意見では、医者が痛みを理解してくれないというお話が多いのです。おそらく、顔面神経麻痺になった人の1,000人に1人程度の割合でこうした痛みを伴うので臨床上はなかなか診る事は無いのかもしれません。
三叉神経痛の治療薬として一般的に普及処方されている薬に、テグレトールという抗てんかん薬を用いているようですが、顔面神経麻痺に合併して起こる三叉神経痛にはこうしたお薬は思ったような効果が期待できないようです。その問題はやはり前記したとおりに痛みの性質が微妙に違うという事なのではと感じています。
私が今考えているこのカウザルギーというカテゴリーに属す痛みと考える理由の一つは、脳神経の情報交換ミスによってこうした痛みが顔に出ていると考えているからです。いや、実際には顔に痛みは存在しなく、痛みの情報として脳へ末梢から信号が送られているといった考えのほうが正しいのではと考えています。
RSDに属する、脳血管障害、中枢神経麻痺における視床痛というものは、私は病院勤務時代に相当数看てきておりますが、この視床痛という中枢系に起こった問題は、実際には手や足は痛む所見は無く、視床の損傷により脳の誤認における手足の痛みとなっているもので、こうした末梢部に痛みの原因が無いケースで考えるものの1つです。
カウザルギーに属する末梢部で起こるものの代表的なこうしたケースでは、ファントム(幽霊)現象、幻肢痛といわれるもので、手足を切断した人が存在しない手足の痛みを訴えるものです。私が治療に当たったケースでは、存在する同じ手足の部分に治療を加えて治療したケースと頭にイメージをさせて無い手足を動かすトレーニングなどをしましたが、このケースで特に興味深かったのは、手足が無いのに脳からは信号が絶えず出ているという事です。もちろんこうした事は義手や義足をロボット化するシステムですでに応用されているようですが、こうした情報が絶えず送られているにもかかわらず、実は脳へのフィードバックの欠損によって情報交換のミスとして「痛み」という事が起こっていると考えています。無い手足を動かす実感は実は、視覚的にも得られるのではとも思っています。同じ脳神経を使う事でこうした満足感、つまり情報のフィードバックが実現できると脳は納得すると考えます。
では、極めて、水痘ウィルスや単純ヘルペスウィルスが明確でなく、神経腫瘍などの問題が無い、顔面神経麻痺における頑固な三叉神経痛についてはどう考えるのか?という点ですが、末梢の顔面神経(運動神経)麻痺において発症後、機能回復時点において脳からの伝達のレスポンスの悪さを受動的に三叉神経路を通じて脳へ送り返された情報交換ミスではないか?という事を私は考えています。脳からの指令において、任務を全うできない顔面神経(運動神経)に対して、何かしらのトラブルに見舞われているという情報を三叉神経(知覚神経)を通じで脳への情報通達を行う過程で「痛み」という信号に変換され脳に送られている状態がこの症状の正体ではないか?と考えています。
また、他の所見としていずれもこうした患者の局所の虚血状況が共通していることに私は注目しています。RSDの場合は特徴として、交感神経反射が急性期をすぎても落着かず、継続して交感神経が過緊張するために局所に虚血症状=冷えや血行障害を表す所見が出てきますが、同じく顔面神経麻痺における頑固な三叉神経痛にも同様の状況も確認できます。
全く同じ様な現象としては、心筋梗塞における左の上肢(小指にかけて)の痛みも同様であると考えています。このケースでは血管の状況を知覚神経がピックアップしながら脳への
情報通達に際して「痛みとしびれ」の信号を送っています。このケースにも虚血状況は存在していると思われます。また、私の所見ではこうした患者が心筋梗塞の手術や処置を終えた後にも、まだ痛みを訴えるという事も多く注目するに値する事だと思っています。